RFMは顧客の特徴を表していない(前編)
/マーケティング・サイエンスという共有知
~ CRM実践の知恵 ~ Vol.3
“セグメンテーションばかり考えていてもマーケティング施策は生まれない。しかし同時に、適切な顧客セグメンテーションなしには効果的なマーケティング施策が生まれないのも事実である。”と以前コラムに書いた。この言葉に対して想像以上に社内外からの反響があったので、今回も「セグメンテーション」について書きたいと思う。
そして、今回のマーケティング・サイエンスという共有知は「RFMは顧客の特徴を表していない」[1]を紹介したい。
セグメンテーションが不適切 ⇒ 顧客理解が不十分
さて、そもそもマーケティングの共通言語である「セグメンテーション」はなぜ重要なのであろうか。
「ターゲットが曖昧で、頻繁に変更されるために、施策自体もぶれてしまう…」ということはよく聞く。確かに、ターゲティングを明確に行うということは重要である。しかし、多くの場合、ターゲティングの問題というよりは、その前段階としてのセグメンテーションが適切でない、という問題が根本にある。
上記のコラムで書いたとおり、ターゲット顧客を20代女性にするか30代女性にするかというターゲティングの問題以前に、年齢性別のデモグラだけの軸でセグメンテーションすることが問題であることについてはご理解いただけると思う。
また、ある企業A社では、商品Xの購入有無が顧客の特徴を説明するために重要な軸であったが、その商品の購入客か未購入客かどちらをターゲットにするか以前に、数百種類ある商品の中から、商品Xが顧客を説明する最も特徴的な商品だと発見できていなかった。
この企業と同様に、顧客セグメンテーション軸を発見できていないことがマーケティングのボトルネックになっている現場は非常に多い。
このような状況を考えると、ターゲティングの問題はセグメンテーションが適切にできていないことに起因していると言っても過言ではないであろう。そして、セグメンテーションが適切でないということは、そもそも顧客理解がずれているはずである。そして、言うまでもなく、顧客が正しく理解できていなければ、マーケティングはうまくいかない。
顧客理解が深まらないということに陥りがちなパターン
セグメンテーションが不適切であれば、顧客理解が不十分になるとはどういうことか。よく耳にするセグメンテーションはデモグラによるものであり、その次はRFM (Recency/Frequency/ Monetary)であろう。
デモグラについては、”(顧客を)年齢・性別の2軸だけで分類してしまうと、どうしても表面的でありきたりな洞察になりがちである。”と、デモグラだけでは顧客理解が深まらないことについて、上述のコラムで指摘した。
そして、RFMであるが、これはデモグラ以外の顧客分類・購買データの分析方法として最もよく知られている手法であろう。しかし、デモグラだけの顧客分類と同様に不十分な顧客理解に陥ってしまうことが実は非常に多い。
具体的に考えてみよう。例えば、RFM分析を行い「離反客」を特定したとする。しかし、一概に「離反客」といっても、未購入の理由はさまざまで、商品の質に満足せず遠ざかった客、低価格な競合店に乗換えた客、この業種・商品の購入をやめた客、引っ越した客などが考えられる。
しかしながら、社内のマーケティング会議などでは、多様なニーズが混在するにも関わらず「離反客」などと大雑把なセグメンテーションをし、一括りにして議論を始めてしまうことも少なくない。そうすると、
「調査によると、この顧客は○○を求めている」
「いや、ある顧客は逆に○○より△△が重要と話していた」
「とは言っても、○○も△△も□□な顧客にとっては全く魅力的ではないという声がある」
などと、相反する意見がどんどん出てくる。
困ったことに、これらはどの情報も否定されるものではなく、すべて顧客の声という事実としての情報なのである。そして、会議の終盤になるにつれ、このように発散した情報をどうまとめていくかという問題に向き合わなければならなくなってくる。
この状況に直面し、「離反客」という大枠に無理やり情報を収めようとした場合は、
- 恣意的に情報を選択して、(どこにも存在しないような)虚像の顧客像を作り上げてしまう
- せっかく収集した特徴を平均的に丸めてしまい、そこから効果的な深い洞察は得ることができない、差し障りのない薄っぺらな顧客理解になってしまう
などのパターンに陥りがちである。
そして、このような顧客理解からマーケティング企画を進めると、結果的に誰にも響かない施策ができ上がってしまうということになりかねない。よくあるアイデアとして、「離反客」の再来店促進のために割引クーポンを送付するというのがあるが、もし離反の理由が価格ではなく商品の質への不満が主要因なのであれば、割引施策はそれほど効果が見込めない。
「離反客」を特定したとしても、その理由はさまざまである。顧客心理やニーズを理解することなしに施策を考えてしまうと、ずれた顧客アプローチになってしまう。
また、不適切なセグメンテーションで議論を進めた別の結果としては、意見がまとまらず議論の収拾がつかなくなり、具体的なアクションにつながらないということが考えられる。そして、挙句の果てに最悪のケースとしては、「顧客視点で考えることは、効果的なアプローチではない」などの誤認・誤解が蔓延するなど、あるべきマーケティング活動が滞ってしまうこともある。
顧客理解を深めるためには、まずどの顧客セグメントを深掘りするかを適切に決めておくことが非常に重要である。しかし、その前のセグメンテーションが適切ではないと顧客理解が深まらず、結果的に曖昧なマーケティング設計につながってしまう。根源的な問題が「セグメンテーションの枠」の設定にある場合が多いので注意したい。
では、どのようにセグメンテーションを考えていけばいいのか。次回は、その解決策に向かうために、まずRFMのセグメンテーションがうまくいかない理由・原因を考えていこうと思う。
顧客理解を深めマーケティングを実践していく上で、セグメンテーションは極めて重要なプロセスである。そのセグメンテーションは簡単そうに見えて、実は奥が深い。下記は必読記事と思うので、紹介しておきたい。
フレームワークで考える(前編):ターゲティングとセグメンテーション[本質的問題解決Q&A]/ 斎藤顕一の営業プロフェッショナル養成講座:Harvard Business Review
参考文献:
[1] 阿部誠(2011). 「RFM指標と顧客生涯価値:階層ベイズモデルを使った非契約型顧客関係管理における消費者行動の分析」, 『日本統計学会誌』, 41, 51-58
CRM実践の知恵シリーズ
- Vol.1 マーケティング・サイエンスという共有知
- Vo.2 デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分
- Vo.3 RFMは顧客の特徴を表していない【前編】(本記事です)
- Vo.4 RFMは顧客の特徴を表していない【後編】
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