CRMのプロが書くマーケティングBLOG

デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分/
マーケティング・サイエンスという共有知
~ CRM実践の知恵 ~ Vol.2

デモグラだけでは不十分

前回、マーケティング・サイエンスという共有知~CRM実践の知恵~で“文系的な視点からだけでも実践に役立つヒント”と書いたが、今回はそのヒントの1つとして、「デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分」[1]を取り上げたい。

なお、このテーマに関しては、「F1層やM1層だけでイメージしていませんか?売上効果をアップさせる正しい顧客セグメンテーション方法」Web担当者Forumのコラムでも取り上げ、解決策の1つとして行動ターゲティングを、そしてさらに次の一歩として、“行動を起こしていない顧客の好みや価値観・ライフスタイルを推測する”と書いたが、詳しくは説明しなかった。

今回は、この「推測する」について紹介していこうと思う。

なお、今回の記事は上記Web担当者Forumコラムの続き(補足)として、また同コラムの内容とあわせて「マーケティング・サイエンスという共有知」の第2回として、進めていければと思う。

顧客の好みを推測する嗜好推測

まず、行動ターゲティングと嗜好推測の全体像について、上記コラムと下記Slideshareで再度確認してほしい。

なお、「推測する」というと、データマイニングをイメージする方も多いかもしれない。しかし今回紹介するのは、統計解析の技術を使わない方法で実践した事例になる。

「デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分」という共有知を土台にして、どのようにCRM実践を向上させていったのかを確認していただければと思う。

 

顧客の好みを推測するということは、各コンテンツの行動あり(クリックあり)会員の特徴・パターンを分析することで、行動なし(メールクリックなし)会員をも分類する「軸」を探し出すということである。

ここで間違えてはならないことは、その「軸」は各コンテンツのクリック率が「それぞれ1位になる境界線」であるということだ。

たとえば、コンテンツBをクリックした会員の特徴として、「30代女性が多い」という結果が出たとする。しかし、これだけでは、コンテンツBを30代女性に送付すればいいということにはならない。
たとえコンテンツBの顧客特徴が30代女性だとしても、30代女性セグメントで最もクリック率が高いコンテンツがCなのであれば、BではなくコンテンツCを配信すべきなのである。

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このようにコンテンツBの特徴としての30代女性という「軸」は、そのセグメントでコンテンツBがクリック率1位にならないため、顧客分類軸として使えない。とにかく必要なのは、クリック率が最大となる“コンテンツを出しわける”ための顧客の境界線として「軸」である。

では、コンテンツの1位が逆転するような「軸」をどのように探し出すかであるが、定量分析で数字に向き合っているだけでは、効果的な「軸」は思いつくこと(仮説構築)は容易ではない。

こうした仮説構築のためには、定性調査を実施することがおすすめである。定性調査はコストや期間がかかってしまうという問題があるが、それを克服しローコストかつスピーディに顧客インサイトを得る方法として「ご近所リサーチ」を弊社では提唱している。

行動ターゲティングと嗜好を推測するソリューションを実施した某企業でも、まずご近所リサーチを実施。その結果から、特定商品の購入客が他にはない購買心理を持つことがわかってきた。

多数ある商品の中から、定量分析だけでこの商品を特定することは至難の業であるが、定性調査を実施することでこのような顧客インサイトが浮かび上がってくることは多い。そして、その特定商品の購入という「軸」で顧客分類をすると、コンテンツ1位が逆転することが定量分析により明らかになり、顧客の嗜好を推測するための「軸」を見出すことができた。

このように、行動した顧客は行動実績データよってA、B、Cの嗜好別セグメントに分け、さらに行動なし(メールクリックなし)顧客に関しては、行動実績がある顧客の分析をもとに嗜好を推測しA´、B´、C´と分類。それぞれに最適なコンテンツを配信したことで、売上を向上させた。

今回は、マーケティング・サイエンスの共有知として「デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分」ということを意識し、施策を立案・実行した成功例として、行動顧客から未行動顧客の嗜好を推測するという方法を紹介した。

なお、「デモグラを超えたセグメンテーション」の方法は、Societasもその1つであり、当然ながら様々な手法がある。
自社の現状にあわせ最適な方法を選択し、あるいは組み合わせて活用していくことがCRM実践を高めていくために重要になってくる。

 

本内容に関して、下記を補足しておく。

マーケティング・サイエンスを参照する意義

「『デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分』という今回のテーマは、サイエンスを持ち出すまでもなく現場感覚としてわかっていることではないか?」と思う方もいるかもしれない。

確かに、ヒトの直感力というのはなかなか鋭いもので、本質に気づいている場合が多い。しかしながら、直感的な気づきだけでは、意思決定をしきれない。あるいは、上司に説明しきれないということもあるのではないだろうか。

実際、顧客分析の結果をレポーティングする際に、「やっぱりそうか。それはわかっていたよ。」と言った感想が出るが、「それでは、その対策はすでに打ってあるのですね?」と確認すると、実施できていない場合が非常に多い。

その実施に至っていない理由は、決して怠慢などではなく、それを組織としての共通認識として明確に意識することができていなかったことが大きいのではないかと思う。

年齢性別などのデモグラだけの運用がまだまだ多い現状において、

すでに現場で直感的に気づいていることだとしても、科学的知見として明示し組織の共有知にできることは重要

だと思う。

まず活用し実践をすること

また逆に、理論の厳密性を重視する立場としては、『デモグラだけの…』というのは粗すぎるとの指摘があるかもしれない。

しかし、マーケティングを次のステージに押し上げるためのまず一歩を踏み出すためには、

この粒度で活用し、実践PDCAを回転させ“始める”ということが成功への近道

と考えている。

実際に「デモグラを超えて顧客セグメンテーション」を実践した企業では成果が向上している。

上記コラムでは、“あるアパレルECサイトでは、ブランドの商品ページを閲覧したユーザーは閲覧していないユーザーと比べて、そのブランドの商品を購入する確率が7倍も高くなる”、“Web閲覧データを活用して顧客セグメンテーションを実施した結果、月商を1.2倍に伸ばした”などと紹介した。

Webマーケティングは、トライ&エラーを繰り返しやすい、チャレンジしやすい環境にある。マーケティング・サイエンスからの知恵を正しいかどうかを厳密に検証するよりも、それをまず取り入れ実践し、その結果を確認する方がおすすめである。

参考文献[1]

JT Plummer. (1974) The concept and application of life style segmentation, the Journal of Marketing
阿部誠. (2003) 「消費者行動のモデル化 : 消費者の異質性(マーケティング・サイエンス II)」 社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会
馬場彩子, ベルタンマチュー, 谷田泰郎 (2013) 「社会知としての消費者価値観構造モデルと類型「Societas」の構築」 一般社団法人 人工知能学会

CRM実践の知恵シリーズ

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