マーケティング・サイエンスという共有知
~CRM実践の知恵~ Vol.1
相手にメッセージを届けるために相手を深く理解することから始めるということは、コミュニケーションの原理原則である。顧客がどのような思いやニーズを持っている人なのかを深く理解し、いつ、どこで、どのように、どのような内容を伝えるかを、常に気を配りコミュニケーションの「質」を高めていくことができれば、着実に成果に結びついていく。
ご存知の通りCRMやOnetoOneの考え方は決して新しいものではない。広く知られており、取り組むべき重要な活動として、いわば「常識」となっている。各担当者はWEBサイトの更新、アクセス解析、広告管理、コンテンツの工夫、メール配信、問合せ対応など、顧客コミュニケーションに関わる様々な業務に取り組まれていると思う。顧客の反応を考え、細部にまで注意を払い、修正改善を繰り返し、膨大な作業時間を顧客とのコミュニケーションに費やしている。
しかし、それにも関わらず、顧客志向の対応、CRMが十分にできていると胸を張って言える担当者は多くないのが実状だと思う。CRMは「常識」とは言っても、その実践は対応すべきことが多くあり、まだまだ不十分だと考えている方が少なくないのではないだろうか。最悪の場合はCRMというのがコンセプト・ビジョンどまりで形骸化してしまっている場合もあると思う。
CRM実践の現状をチェックしてみる
コトラーは1999年、10年以上前に今後の重要なテーマとして
- リレーションシップ・マーケティング
- 顧客の生涯価値
- 個別化
- 顧客データベース
- 統合型マーケティング・コミュニケーション
などの11項目をあげたが、われわれはこれらのテーマをどこまで実践できているだろうか。
自社の活動状況の確認の目安として、下記項目をYes/noでチェックしていただきたい。
□ 新規獲得件数だけではなく、リピート率が上がっているのか、下がっているのか、その推移
を把握しているか?
□ 施策のROIをLTV(生涯価値)もふまえて評価・改善しているか?
□ 一斉メール配信だけではなく、顧客セグメント別配信をしているか?
□ 広告、WEBサイト、メルマガ、ソーシャルなどの施策を十分に相互連携して実施できている
か?
どの項目も目新しいことではないと思う。
そして10年以上前に提言されたテーマの内容だと考えると、3つ、少なくとも2つはYesとなっておきたいところだと思うがどうだろうか。逆に考えれば、Noがあるということは取り組みの余地が多いにある。現状取り組んでいないのであれば、取り組めば成果が出る可能性は高い。
CRMを強化する、顧客志向を実践する、といったことは、あたりまえのことをしっかりと取り組んでいくことに尽きる。実際、取り組んでいる企業は成果を出している。地道な活動かもしれないが、顧客満足を高めるために、正直に取り組んでいくことが、最も確実に成果が向上する最短距離であるのかもしれないとも思う。
たとえば、前述のチェック項目のうち、3つ目メールの例で考えてみよう。
いまや消費者に送られてくる企業のメルマガの数は非常に多く、反応率が低下してきている企業が多い。そのような中、セグメント別配信などの「メールの質の向上」の重要性が高くなってきていると感じている担当者も増えてきている。顧客にとっても、自分の興味があるコンテンツが送られてくるわけだから、よりうれしいことであり、顧客本位の取り組みであることに異論はないと思う。
しかし、実践されていることは少なく、ほとんどの企業が一斉配信のみをしている状況だ。取り組んだ方がいいとはわかっているが、対応できていない理由は、
- 顧客セグメントをどうすればいいか、各コンテンツはどうすればいいか、ノウハウがない
- そもそも対応する時間がない
というような、「ノウハウ不足」と「リソース不足」という理由が大きいと思う。
CRM実践へと導く「マーケティング・サイエンス」という共有知
そのような問題に対して、最近では事例報告も増えノウハウの共有も進んできており、そしてそれらをより容易に実行できるツールもコストも含めて現実的になってきている。
実践のためのノウハウが求められている状況の中で、マーケティング・サイエンスという使える共有知があるということは意外に知られていない。
マーケティング・サイエンスとは、データマイニングや統計手法を駆使することと考える方は多いかもしれない。狭義ではその通りかもしれないが、広義では「勘や経験だけではなく、マーケティング手法を体系化していこう」、「一部の優秀マーケッターの属人的な職人芸でしか実現できないのではなく、共有知としていこう」ということである。
よく知られた一見簡単に思えるような施策でも、闇雲にやればうまくいくということはないわけで、成功確度を高めるためにも、アイデアと手法論が蓄積されているマーケティング・サイエンスという知恵と武器を使うことはおすすめである。
ところで、サイエンスとは言っているが、むずかしく構える必要ない。われわれ実践家にとっては、アカデミックな評価ではなく、使えるノウハウをそこから見つけ出すことができればいいわけである。
統計解析などの内容は横において、文系的な視点からだけでも実践に役立つヒントはある。お客様を深く理解し、最適なコミュニケーションをとり成果を上げていくためのポイント、多くの企業が実践に至っていない、意外とできていないシンプルなCRMの秘訣、弊社お客様との実績事例などをもとに今後いくつか紹介していければと思う。
ツールの進化やノウハウの蓄積により、CRMの幅はますます広がっている。研究・実践の成果として蓄積されているノウハウを知ることは、お客様とのWEBコミュニケーションの質を上げる上で大きなヒントになる。
CRM実践の知恵シリーズ
- Vol.1 マーケティング・サイエンスという共有知(本記事です)
- Vo.2 デモグラだけの顧客セグメンテーションでは不十分
- Vo.3 RFMは顧客の特徴を表していない(前編)
- Vo.4 RFMは顧客の特徴を表していない(後編)
※記載されている内容は掲載当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。ご了承ください。