ヤクルトスワローズが旅行者を増やす?!
旅行会社×プロ野球球団が実現したタイアップの背景と未来

沖縄ツーリスト × ヤクルト球団

沖縄ツーリスト株式会社は、株式会社ヤクルト球団の1DAYスポンサーに就任。試合に駆け付けたファンに対し沖縄旅行のプレゼントキャンペーンを行いました。キャンペーンへのファンの関心も強く、沖縄ツーリストが実施した過去のプレゼントキャンペーンの約3倍もの応募が集まりました。このように、プロ野球のファンクラブの会員に対し、直接スポンサー企業がアプローチすることはあまり例がありません。

今回の取り組みは、シナジーマーケティングの紹介により実現しました。ファンクラブの会員を増やし、黒字収益を上げるためにITシステムを導入したヤクルト球団と、“ファン”の獲得のため、新たにCRMを始めた沖縄ツーリスト。このコラボはなぜ実現したのか、効果は、そして今後の可能性は?今回は、当事者である株式会社ヤクルト球団の金木さんと沖縄ツーリスト株式会社の吉澤さんの対談をお届けします。

取り組み概要

ヤクルト球団のファンクラブ「Swallows CREW」をスポンサーである沖縄ツーリストに開放。沖縄ツーリストは、Swallows CREWに対して、2つのアプロ―チを実施。

1. 「沖縄ツーリスト One Two Smile ナイター!野球観戦チケット」のプレゼント

ご応募いただいた方の中から10組20名に抽選で8/7の対阪神戦の観戦チケットをプレゼントするイベント。7/20に会員メール(CREW MAIL)で告知。

2. 試合当日、抽選で沖縄旅行をプレゼント

ご応募いただいた方の中から抽選で5組10名に沖縄旅行をプレゼントするキャンペーン。試合当日(8/7)配布のうちわに記載されているQRコードよりエントリーページへ。

一見、関連のない「旅行会社」と「野球球団」が結びついた背景

沖縄ツーリストブース

―まず初めに、今回のコラボのきっかけを教えていただけますか?

沖縄ツーリスト 吉澤(以後、敬称略) 弊社は今年で創業58周年、東京に出店してからはちょうど50周年に当たります。そこで、東京での開設記念としてなにか1つ企業とコラボができないかという話が出ていました。そんな折、以前シナジーマーケティングさんから野球、サッカーのことを紹介していただいたことをふと思い出して。じゃあ、スポーツでコラボしようと考え、シナジーマーケティングさんにオファーしました。

―それで球団とのコラボの話が出てきたのですね。ところで、数ある球団の中でも、なぜヤクルトさんを選んだのでしょうか?

吉澤 1番は、沖縄と少しでも関連のあるものがいいと思っていたからですね。ヤクルトは沖縄キャンプをやっているので、「沖縄ツーリストといえばヤクルトの沖縄キャンプ」というつながりで認知していただくのが自然でわかりやすいなと思いました。まあ、私がヤクルトファンということも大きいんですけどね(笑)

―(笑)お話を聞いたとき、金木さんはどのように思いましたか?

ヤクルト球団 金木(以後、敬称略) 私たちも“企業に向けた”CRMをやろうという話が出ていたので、ちょうどいい機会だと思いましたね。というのも、一般的にCRMの定義は「B to C」ですよね。しかし、私たち球団は、さまざまな企業からのご支援があってこそ成り立っているので、スポンサー企業も”C”の対象になるのではないかと考えていました。そこで、私たちができることはなにか。そのときに、球団が抱えている顧客を、スポンサー企業に送客できる施策が最も良いのではないかという結論に至り、今回提案させていただきました。

―吉澤さんはその提案を聞いてどう感じましたか?

吉澤 魅力的でしたね。弊社では2015年からCRMの取り組みを開始し、まずはメールマガジンの定期配信を行っています。社名の通り、「沖縄」旅行が中心の為、お客様の次回予約のタームが長く、また、沖縄以外の国内・海外旅行、沖縄であっても他社商品との比較から再スタートされる場合が多く、「沖縄ツーリストのファン」つまり、リピーター作りに苦労をしています。ですので旅行軸ではなく、好きな球団という新たな軸をお持ちの顧客層にアプローチできることは新たなチャンスだと考えました。また、ヤクルトさんは2月のキャンプで沖縄と縁もあるので、「ヤクルトを応援している旅行会社」としてお客様にもスムーズに受け入れていただけるのではないかと思いました。

―確かに、“沖縄キャンプ”と“旅行”であれば、自然とつながりを感じます。一見、関連性がないように思えましたが、意外なところで結びついていたのですね。ところで、企業同士のコラボはとても時間がかかりそうですが、実際のスピード感はどうだったのでしょうか?

吉澤 正式に動き出したのは2016年の3月ごろからですかね。思いついたことをその都度ヤクルトさんに提案していき、最終的に、本当に面白いとなった企画のみを採用し、シナジーマーケティングさんと一緒にキャンペーン設計していきました。発想先行で動けたからこそ、5か月という期間でここまでの成果を上げられているのかなと思います。

過去のキャンペーンの“3倍”の集客。両者、想像以上の成果を上げた理由

―今回のイベントの数字を見て、率直な感想を教えていただけますか。

金木 想像以上ですね。今回初めてスポンサー企業向けにカスタマイズしてメールを発信したのですが、通常の CREW MAIL よりも効果(開封率・クリックフィードバック数など)があったと思います。

―ちなみに、普段、開封率などの効果が高い CREW MAIL とはどのようなものなのですか?

金木 マスコットや選手となにかができるイベント系ですね。その中でも今回の沖縄ツーリストさんとのイベントは群を抜いて効果があったと思います。第一弾のメールや第二弾のうちわの当日配布、さらに沖縄旅行をプレゼントということで、おかしいくらいの効果が出ました(笑)。良い実績を出すことができたので、「これは他のスポンサー企業にもご案内ができる」と確信しましたね。

―スポンサー企業に新規のお客様を送客することができたことで、今後、他の企業とのコラボという可能性も出てきましたね。ところで、金木さんは今回成功した理由をどのようにお考えですか?

金木 あくまで個人的な予想ではありますが、お客様としてはより情報を欲していたのではないかというのが僕の肌感覚です。ファンクラブ自体は何十年も前からあったのですが、会員向けのアプローチ手段はあったようでなかったのが実態だったんですね。今回、シナジーマーケティングと一緒に CREW MAIL をしっかり配信して、あれだけの数字が出た。つまり、情報を欲していたのに球団は提供することができていなかったということだと考えています。
エンドユーザーの欲する情報を的確なタイミングで提供するために、今後も CREW MAIL をうまく使っていこうと思います。

―吉澤さんは数字を見ていかがですか?

吉澤 ヤクルトさんの CREW MAIL の開封率の高さは拝見していたので、そこに便乗できるかなと思っていたのですが、それ以上の成果でした。試合前、そして当日、試合後と会員に告知をしたので、とてもインパクトがあったのではないかと思います。このようなイベントの際は1組のみのご招待が多いのですが、今回は奮発して5組。弊社も反応を楽しみにしていましたが、想像以上のエントリーが来て良かったです。

―自分の応援している球団のキャンプ会場に行けるのは、ファンにとっても魅力的に映ったのではないでしょうか。ところで、今回は会場前でブースも出店していましたが、成果はどうでしたか?

沖縄ツーリストオリジナルキャラクターのガチャ

吉澤 とても盛況でした。会員の方には、弊社オリジナルキャラクターのガチャの無料券も配布したので、多くの方にお越しいただきました。その様子を見て興味を持ったのか、一般のお客様にも多く立ち寄っていただきました。

―試合会場では、スタジアムとイベントが連動したなという印象を受けました。過去のキャンペーンと比べてみてどうですか?

吉澤 今回はそれらの約3倍のお客様がきていますね。過去に川柳を使った沖縄旅行プレゼントキャンペーンを行ったのですが、必ずしも次の旅行先が沖縄である必然性がなく、応募数もあまり伸びませんでした。
一方で今回はヤクルトさんに縁があることから、少なからず沖縄に魅力を感じているであろうファンの方々に対して直接アプローチをすることができました。だからこそ3倍もの応募数につながったのではないかと思います。

旅行会社は球場への集客のために。球団はファンの送客のために。今後の展開と可能性

ヤクルトスワローズのファンが持つ沖縄ツーリストのうちわ

―今回、一見関係のなさそうな「球団」と「旅行会社」のコラボが実現したわけですが、金木さんはこの意義をどのようにお考えなのでしょうか?

金木 今回の取り組みが成功したことで、私たち球団がスポンサー企業に貢献できる幅が広がったと考えています。例えば、今後このようなコラボを増やすことで、ご協賛いただいた企業をさらに横でくっつける役になることができると考えています。今回の場合であれば、沖縄ツーリストさんに、また別の球団をご紹介するとかですね。そのような活動を通して、「ヤクルトのスポンサーをすると、仕事の幅が広がる」という声が出れば、企業側も、スポンサーとしての付加価値を感じていただけるのではないかと思います。
とても密度の濃い取り組みだったので、今後もこのような取り組みを増やしていきたいですね。

―ヤクルトも、スポンサー企業も、さらに仕事の幅を広げる第一歩の取り組みであったと言えますね。では最後に、今後の展開について伺いたいと思います。

吉澤 イベントに関しては継続的に行っていきたいと思います。年間で1イベントではなく、コラボをすることでイベント以外でのファンへのアプローチができたらなと。

―“イベント以外でのアプローチ”と言うと?

吉澤 具体的には、沖縄キャンプ、地方遠征試合、また地方から神宮など、“集客”の部分を考えていきたいです。というのも、通常のパッケージツアーは高額なことが多いんです。そこで、旅行会社として、ファンが選手たちとより多くの接点を持つことができるように努めていければと思います。

―金木さんはいかがですか?

金木 次回からは、ファンを沖縄に送客するというベースの部分は変更せずに、毎年さらに相乗させるような施策を考えていく必要があると思います。毎年レベルアップをしていくことで、両者の関係性も良くなるかと。また、この取り組み自体を球団としてもっと大きくしていきたいとも考えています。

―新しい施策としては具体的にどのようなことを考えていますか?

金木 実現できるかはわかりませんが、ファンクラブ専用のスポンサーを作りたいなと思います。例えば、首都圏のクルー会員の方たちが地方へ行ってヤクルトを応援していただくときに、沖縄ツーリストさんがツアーを作れるような事業を作れたらと。あとはネーミングとか付けてもいいのかなとか。沖縄ツーリストデーにはユニフォーム型のアロハシャツを着てもいいですね!

吉澤 非常に面白いですね。特にクルー会員のスポンサーは、弊社の名前を広める、もうひと押しのところでも役に立つと思います。

金木 企画とアイディアはあふれるほど出てきます(笑)夢が膨らむようなことをたくさんやっていきたいですね。

―聞いているだけでこちらもワクワクしてきました。異色のコラボですが、思わぬところで仕事の可能性は広がっているのですね。今後、どのようなコラボが実施されるのか、とても楽しみです。本日はありがとうございました。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。

株式会社ヤクルト球団
金木 寛之 氏

2014年からファンクラブ企画・運営を担当。他部署との連携を図りファンクラブ会員のロイヤルティー向上に務める。

沖縄ツーリスト株式会社
吉澤 信彦 氏

2015年より沖縄ツーリスト本土地区(東京・名古屋・大阪・福岡、等)のCRMを担当。企業コラボなど、新規顧客層の獲得に務める。

沖縄ツーリスト × ヤクルト球団

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