自社会員だけでは見えなかった課題が、覆面 Web 調査の客観的視点で浮き彫りに
~リサーチ結果を顧客体験の向上に活かす~

日本ロレアル株式会社

敏感肌の方向けの製品を提供する「ラ ロッシュ ポゼ」は、覆面調査(ミステリーショッパー)のWeb版である「覆面Web調査」を導入しました。この調査はシナジーマーケティング株式会社と株式会社MS&Consultingの2社協業によるもので、前者による事前設計と後者による覆面調査員の選定により、高精度なマーケティングリサーチが可能となっています。

インタビュー参加者写真

写真左より

吉田 敏弘
シナジーマーケティング株式会社 Webアナライズグループ マネージャー

藤田 敦大 氏
株式会社MS&Consulting ブランディング推進部 マーケティング・ディレクター

森川 美結 氏
日本ロレアル株式会社 アクティブ コスメティックス事業部 ジュニア eビジネス コーディネーター

橋爪 勇磨
シナジーマーケティング株式会社 プロフェッショナルサービスグループ サブマネージャー

※部署名・役職は取材当時(2019年6月)のものです

お客様目線を明確にする「覆面Web調査」

― 今回は「覆面Web調査」がテーマです。ミステリーショッパーのような実店舗での覆面調査の存在は有名ですが、Webでの覆面調査はこれまでにないサービスですね。サービスが生まれた背景と、今回の調査の概要について教えてください。

シナジーマーケティング吉田 当社は企業様のCRM活動を支援しています。CRMは企業がお客様と長期的に良好な関係を構築することで収益化を図る活動ですが、それらをお手伝いする中で顧客満足度を気にかけない企業様は会員が離れていくことが多いことに着目していました。最近ではお客様と面と向かってやりとりせずに、Web上で購買までのやりとりを完結してしまう企業が増えてきていますが、そのような企業様も同様に、顧客満足度を把握し、それを高めていくことが、収益化を図るうえで重要な活動であるという認識があったのです。

そのために、会員登録や製品を購入してから一定期間が経過するまで、全体を通してお客様が満足しているのかどうかを明らかにできるサービスがあれば良いのではと考えました。そこで、MS&Consulting様と共同で覆面Web調査というサービスを始めた次第です。

今回の調査の概要ですが、調査をしてもらうのは日本ロレアル様のラ ロッシュ ポゼブランドを知らないワーキングマザーの方5名(20代1名、30代2名、40代1名、50代1名)です。この調査員には、ラ ロッシュ ポゼのオフィシャルWebサイトから実際に製品を購入してもらい、かつ会員登録をしたうえで、同サイトのユーザビリティなどをチェックしながらアンケートに答えてもらいました。アンケートは「会員登録・購入直後」「製品が届いた直後」「1カ月経過後」の合計3回で、それぞれの顧客体験をチェックしながらアンケートに答えてもらいました。

覆面Web調査の特徴は、「客観的な意見」を集めることができることです。自社会員へのアンケートだと、すでにサービスを知っている・利用している顧客への調査になります。覆面Web調査は、自社サービスを知らない人を対象にできるので、客観性を担保できます。

― 自社会員へのアンケートだけでは見えなかった課題を把握したり、客観的視点からの意見を得られるところがこのサービスの長所と言えますね。

日本ロレアル様が抱えていた、顧客体験に関する課題

― 続いて日本ロレアル様にお聞きします。今回、覆面Web調査を実施されましたが、貴社がマーケティング活動、とりわけ顧客体験の部分で抱えていた課題とは何だったのでしょうか?

日本ロレアル森川様 我々もラ ロッシュ ポゼの既存会員に対してアンケートを実施し、製品開発をはじめ、さまざまなマーケティング活動にその結果を活かしてきましたが、ロイヤルティの高いお客様からポジティブな意見が集まりやすい傾向にありました。そんな中、2018年頃から新規のお客様が増えてきたこともあり、それらの新規のお客様がどのような心境で弊社サイトに来て製品を購入してくれているのかを把握したいと思いました。当然、ロイヤルティの高いお客様と、新規のお客様で感じていらっしゃることは違うと想像していましたが、実際に新規のお客様、とりわけまだ我々のブランドを知らない方の新鮮なご意見を把握するための手段がありませんでした。

― 日本ロレアル様は、覆面Web調査の提案を受けた際、どのように感じられましたか?

日本ロレアル森川様 弊社では、さまざまなブランドで従来からオフラインでミステリーショッパーのようなものを実施していました。具体的には、NPS(顧客ロイヤルティを数値化する指標のこと)の測定や、店舗販売員がマニュアル通りに接しているかどうかのチェックなどです。そのような調査のオンライン版ともいえる「覆面Web調査」の提案を受けた際、新規のお客様や、我々のブランドを知らない方の実際の声を聞くチャンスだと感じ、ぜひ試してみたいと思いました。
今回の調査では、製品の梱包についてもお聞きしています。実際に製品がお客様の元に届いた際に、お客様がどう感じたのかを知りたいと考えていましたので。

― ちょうど新規のお客様や、まだブランドを知らない方の声を聞くチャンスだったのですね。実際調査では、どのような声がありその声は社内ではどのように受け止められたのでしょうか?

日本ロレアル森川様 例えば梱包では、「中の製品に対して梱包が大きすぎる。エコじゃない」という意見がありました。これは弊社でも気づいていなかったことです。梱包に関しては、従来の梱包の仕様を変えるにはコストが掛かりますし、マーケティング以外の部署も関係してきますので、何の根拠もなく「改善したほうが良い」と提案したとしても、社内を説得するのはなかなか難しいと思います。しかし、今回の調査の結果、「お客様がこのように感じていらっしゃいます」と提示すると、社内での説得力が増し提案しやすくなります。実際の声というのは社内でのさまざまな施策の合意を得る重要な根拠にもなると感じています。現在、梱包をどのように改善できるか議論を進めている最中です。

― 覆面Web調査の結果が、社内に提案する際の根拠としても役立っているということですね。

精度の高い覆面Web調査のカギは、的確な調査設計と精度の高い回答内容

― 今回の覆面Web調査の全体の流れと、シナジーマーケティングが担当した内容を教えてください。

シナジーマーケティング吉田 先に述べたように調査員の方に3回のアンケートに答えてもらうのですが、弊社はこの3回のアンケートで何を聞くのかという質問事項を設計しました。それらは日本ロレアル様にもヒアリングをさせていただいたうえで設計を行いました。

― 続いてMS&Consulting 様が担当された内容を教えてください。

MS&Consulting藤田様 調査設計を担当されたシナジーマーケティング様からオーダーいただいた内容をふまえ、当社が抱える45万人強の調査員の中から条件に合致する方を探しました。その後、調査員に今回の調査内容をお伝えし、調査が終わると、その結果を集約・確認・修正のうえで納品するという流れです。

今回は、会員登録時・購入時・購入後の3回のアンケートがありましたが、調査員の経験やスキルをしっかりとふまえたうえでアサインしました。また、調査員の提出してくれるレポートは、人によっては独特の言い回しのようなクセがあり、客観的に読みづらい文章になることもあります。その場合、それらを読みやすい形に修正したうえで納品します。

― 調査員の回答内容に関して、御社が心がけていらっしゃることはありますか?

MS&Consulting藤田様 例えば、「良い」「改善すべき」といった回答ではなく、「良い点」に関しては「どうすればさらに良くなると思いますか?」や、「改善すべき点」に関しては「どうすればより良いものになりますか」など、一歩踏み込んだ回答をするよう誘導して聞いています。本当に企業様が欲しい具体的な意見を、調査員から集められるように心がけています。Webのアンケートの場合、「定量調査」という形で回答者の人数を集めることがゴールになってしまいがちです。我々はそうではなく、「定性調査」でありたい、そしてその中でもより深い根本的な部分を追求していきたいと思っています。

― 日本ロレアル様は、今回の覆面Web調査で提出された調査員の回答内容の精度(粒度)という点ではどのように感じられましたか?

日本ロレアル森川様 自由記述欄も、良かった点・改善すべき点に関して詳細に書かれており、本当に真面目に回答してもらえたと感じています。単にローデータを納品いただくのではなく、しっかりとレポートにして納品いただきました。ポイントとなる箇所に下線を引いたり、キーワードとなる部分は文字の色を変えて強調するなど、読み手にとってわかりやすいレポートになっていて満足しています。調査内容はサイトだけでなく、ブランド全体にも関わるものなので、社内のマーケティングチームにも共有しています。

― 今回の覆面Web調査の結果は、社内で横展開できる情報であるという点でも役立っているんですね。

調査の成否を握る、的確な調査設計の難しさとは

― 今回の覆面Web調査、特に調査設計に関して難しかった点・工夫した点について教えてください。

シナジーマーケティング吉田 コスト面や回答のしやすさなどから1回のアンケートで各々10問以内で収めるという前提がありました。3回のアンケートなので、全部で30問のアンケートになります。そのような制約があるところがまず難しい点でした。

今回の調査では、ラ ロッシュ ポゼを知らない方に答えてもらうため、3回のアンケートの中で商品のブランドイメージがきちんとお客様に伝わったのかを聞く設問を盛り込んでいます。具体的には、1回目のアンケートと、2回目・3回目のアンケートでどのようにブランド訴求できているのかについて変化が分かるようにしました。特に「ラ ロッシュ ポゼのブランドの特徴」がサイト上でしっかり伝えられているかどうか疑問があったので、1回目のアンケートでその点についてきちんと伝わっているのか調査できるように設計しています。

ほかに難しかった点は、アンケートに答えてもらうタイミングを間違えると、段階ごとに新鮮な意見を拾えなかったり、アンケートの案内の仕方の段取りがうまくいかなかったりすることもありました。設問内容のみならずタイミングという観点からも、調査設計の際に細心の注意を払う必要があることが分かりました。

調査結果を活かした、顧客体験向上のための今後の取り組み

― 日本ロレアル様にお聞きします。今回の調査結果からどのような課題が明確になりましたか?またその結果をふまえてどのような改善を進めていかれる予定でしょうか?

日本ロレアル森川様 ラ ロッシュ ポゼブランドの製品は、製品名が似ているためサイト内で目的の製品を探しづらいのでは?という懸念がありました。そこで今回、製品を指定させていただき、新規の来訪者の方がサイトで目的の製品ページに迷うことなくたどり着けるかどうかを調査員の方の顧客体験で検証してもらいました。

結果としては懸念通り、「似た製品が多くて間違いそう」という意見がありました。また、目的のページにたどり着いた方の中には、コンテンツをたどるのではなく、サイト内のランキングから到達した人もいらっしゃいました。目的の製品ページに迷うことなくたどり着けたとしても、その理由がランキングでしか認知されていないというのは問題ですから、サイトの導線面での課題が明確になりました。今後は調査結果をもとに、新規顧客にとってユーザビリティの良いサイトに改修をしていくと同時に、明確にブランドの特徴を訴求していきたいと考えています。

― 目的の製品ページに迷うことなくたどり着けたという単純な結果のみならず、調査員の一歩踏み込んだ回答内容により、その理由が明らかになったことで、サイトのユーザビリティの課題が浮き彫りになったんですね。
シナジーマーケティングは今後、このサービスをどのように発展させていこうと思っていますか? また覆面Web調査は競合調査にも使えるように思いますが、この点も合わせて教えてください。

シナジーマーケティング吉田 企業様の現状把握とコンサルティングの判断材料として使っていただきたいですね。覆面Web調査を行えば、どのようなWebサイトでどういった会員制度となっているのか、そして製品をお届けする際の梱包はどうなっているのかなどを客観的に把握できます。それらを知ることで、より良いコンサルティングが可能になると考えます。競合調査についても、他社の化粧品を「同じ人数」「同じ時期」などの条件で実施すれば可能です。Webでの競合調査を行うことで、企業様のWebサイト上の課題を明らかにできます。

― 続きまして、MS&Consulting 様は今後マーケティングリサーチ市場における本サービスの展望をどのように考えていますか?

MS&Consulting藤田様 昨今、EC市場は著しく伸びています。今後さらなる伸びが予想されますが、人口減少にともない売上はどこかで頭打ちになるのではないかと思います。そうなると、EC市場はAmazonなどの巨大サイトに統合されていくことが考えられます。多数の競合他社の中から選ばれるためにも、今後、自社サイトがお客様にどう見られているかを調べることは、非常に重要となります。

コンバージョンは、局所的には「送料無料」や「ポイント◯倍キャンペーン」を実施すると上がると思いますが、それをし続けるといずれ限界が来てしまいます。サイトの使い勝手や商品の探しやすさなど、Google Analyticsなどのツールでは見えづらい部分をお客様の声としてお伝えできれば、サイトの質は向上していくことでしょう。お客様の声を集めることで製品自体により魅力を感じていただき、継続的に利用していただけるようなサイトづくりのお手伝いができると考えています。

シナジーマーケティング橋爪 6月からサイトのA/Bテストを実施しているのですが、その提案内容に今回の調査の視点を入れています。今後は、A/Bテストの改善にも覆面Web調査が活かされていく予定です。

― 覆面Web調査が、A/Bテストを含め日本ロレアル様のサイトやサービスづくりに活かされていくということですね。このたびは貴重なお話をありがとうございました。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。

日本ロレアル株式会社
アクティブ コスメティックス事業部
ジュニア eビジネス コーディネーター
森川 美結 氏

日本ロレアル株式会社

世界の化粧品業界のリーダーであるロレアルグループの日本法人。「すべての人生に、美しく生きる力を。世界を日本へ。日本を世界へ。」という企業理念のもと、化粧品の輸入・製造・販売およびマーケティングを行っている。

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