脳波から顧客のホンネが見えてくる
白鶴酒造の取り組みから見る顧客の本質理解
脳波から顧客の本質理解を目指す科学的なアプローチ、それがニューロマーケティングです。創業1743年である老舗清酒メーカー白鶴酒造は、このニューロマーケティングをCMや商品パッケージの評価に取り入れ、顧客の本質理解に取り組みました。取り組みはどのように進められたのか?そこから得られたものは何なのか?その概要をご紹介します。
なぜニューロマーケティングを取り入れたのか?
“モノ”から“コト”へ。
これからの時代に製造業が取り組むべき課題を集約したこの言葉の背景には、市場が成熟しモノが溢れかえっている現状と、消費者のライフスタイルの変化や価値観が多様化した結果、モノを作っても売れない時代になったことがあります。
多くの消費者の嗜好は“所有する価値”から“体験する価値”へと変化しています。つまり、その商品を利用することで得られる体験価値である“コト”を買っていると言えるのです。顧客のコトはそれぞれ違います。そのコトをいかにして理解し、価値として提供していくのか。それには顧客を本質的に理解した上で、事業性のあるサービスやマーケティングデザインに取り組む必要があるのです。
清酒メーカーである白鶴酒造も、同じ背景から生じる課題に直面していました。それは、30年続くロングセラー商品「まる」の新たなファン作りが課題になっていました。
そんな「まる」ブランドとファン作りのため、「まる辛口」というブランド拡張やCM起用タレントの変更などに取り組み、成果をあげてきました。しかし、そこに課題があったと、白鶴酒造の戦略開発本部 主任の金子氏は語ります。
「CM変更によって『親しみ』『共感』の要素は上がりましたが、『躍動感・活気がある』といった印象が減っていることが分かりました。CMの役割として、クリエイティブのインパクトも重要です。 しかし、クリエイティブの狙いはハマっているのか、改善するのなら具体的にどの部分を改善するべきなのかなどが分かりませんでした。 インタビューなどの定性情報に加えて、インパクトや好感度を定量的に測り、今後のコミュニケーション戦略の仮説を構築することが必要であると感じていました。」
コミュニケーション戦略にとって、“顧客理解”はとても重要です。コトが重視される時代において、顧客理解にもとづく顧客に寄り添ったコミュニケーションなくして顧客の支持を得ることはますます難しくなっています。 そこで白鶴酒造が取り組んだのが、ニューロマーケティングを中心とした顧客理解だったのです。
そもそもニューロマーケティングとは何か?
ニューロマーケティングとは、脳科学の知識をマーケティングに応用し「ヒトの行動の由来」を明らかにする、サイエンスに根ざしたアプローチです。
■ニューロマーケティングの種類(一例)
<特徴>
- 意思決定時の無意識の「情動」を定量的に表すことができる
- データにもとづき「情動」を評価できる
- 「情動」を時間軸で表すことができる
シナジーマーケティングのニューロマーケティングとは?
シナジーマーケティングのニューロマーケティングは、脳波データを中心に各種センシングデータや簡易評価アンケートデータを脳科学にもとづき自動統合し、“誰でも理解できる”レベルで脳波データを解釈可能にします。測定の対象は「モニターで表現できるクリエイティブを用いた顧客体験」、つまりCMやWeb広告、ほかに商品開発用途も可能です。
<特徴>
- 脳科学にもとづき脳波と各種センシングデータを自動統合するフレームワークを開発
- 脳波の専門家でなくても心情解釈が可能
- 同一のロジックにもとづき結果を得ることができるため、その解釈が属人的でない
白鶴酒造におけるニューロマーケティングの取り組み
今回の取り組みでは、白鶴酒造における重要なマーケティングコミュニケーションチャネルである「CM」「商品パッケージ」を、ニューロマーケティングを用いて評価しました。
取り組みは、「調査」と調査レポートをもとにした「グループワーク」から構成されています。
シナジーマーケティングは、ニューロマーケティングをあくまで顧客理解の一手段として捉え、さまざまな手法を組み合わせて顧客理解を深めていきます。
調査では、一般消費者を属性や嗜好をもとに群分けした複数のモニターグループに対して「ニューロ調査」と「インタビュー調査」を行いました。ニューロ調査では、最終的に複数グループの結果をひとつに統合し、モニターが体験した際に感じた「情動」を理解します。さらに、ニューロ調査では導き出せない生活者の日常行動などをインタビューで取集し、ニューロ調査とは違う軸からも消費者の理解を深めます。
■ニューロ調査によるレポート例(パッケージ部分のみ一部抜粋)
その結果をもとに、白鶴酒造とシナジーマーケティングがグループワークを行います。白鶴酒造は、事業者としての知識や経験をもとにデータやインタビュー結果を読み解きます。シナジーマーケティングは、データとサイエンスの観点からそれらを補強し、両者でひとつのインサイトを導出していくのです。
今回のプロジェクト結果を金子氏はこのようにまとめました。
「ニューロマーケティングによって、CMの効果を数値で理解することができました。その結果から見て、我々が発信しているメッセージが、ファン作りに効果的であると確認できました。商品パッケージも、具体的にどのパーツや表現が受け入れられたのかも明らかになりました。
これらの結果から、現在のブランディング方向の妥当性と今後の顧客とのコミュニケーションの具体的な改善点を知ることができたと感じています。」
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。