なぜ価値観マーケティングなのか
1. 顧客理解を深めるために – 行動要因を構造的に理解する
顧客視点の経営や生活者理解のためには、どういう情報(切り口)で理解していくかというのがポイントになります。
たとえば、同じ20代女性でも多種多様なように、年齢・性別などのデモグラの情報(切り口)だけでは不十分ですよね。
また、RFMなどの情報(切り口)も現状の結果でしかなく、なぜそうなのかという顧客心理はわかりません(詳しくは、参考にある過去記事を参照)。
購買理由を聞きたいということでの調査もよくありますが、「安かったから」「商品がよかったから」「利便性がいいから」「このブランドが好きだから」「何となく……」などの表面的な理由だけでは「インサイト」につながらず、深い理解にはなりません。これだけでは新しい打ち手につながらないのです。
では、どのように顧客理解を深めていけばいいのかというと、ここでマーケティング・サイエンスの知見が役に立ちます。
図1をみてください。
図1:生活者行動要因の説明モデル
これは購買行動の要因をモデル化したものです。
2. 流行は変わるが、人は変わらない
上図では、行動に影響する要因として、行動のすぐ上に「好み・嗜好」があります。これは、〇〇商品が好き、△△が好き、というものです。
この生活者の「好み・嗜好」というのは、流行・トレンドに影響されるため、非常に変わりやすく流動的なものです。なので、その人の「好み・嗜好」がどうかというのは、頻繁に確認しなければいけないわけです。顧客の情報収集の観点でいえば、「好み・嗜好」の理解はコストがかさみます。
ですので、OnetoOneマーケティングやダイレクトマーケティング、顧客データベースに顧客ごとの「好み・嗜好」を蓄積することは、対費用効果を考えると現実的ではないことが多いのです。
そこで、「好み・嗜好」の裏側にある「価値観」に着目するわけです。「価値観」というのは何かというと、その人の生活スタイルにあらわれるもので、その人の内面といわれるようなものです。これは変化しないということはないですが、あまり変わりにくいものです。
人は変わらないというのは言い過ぎですが、流行・トレンドやより表面的な好み・嗜好に比べると、人の内面はあまり変わらないものです。移り変わる流行・トレンドの中で、より内面的な「価値観」をもとに、人は選り好みをして、モノ・サービスを購入しているといえます。
たとえば、ファッションでいうと「○○が気になっている」とか「△△の服が欲しい」というのは変わりますが、「おしゃれ好き」「定番・トレンドに敏感」「高価格・高品質がいい」「低価格・最低限でいい」というようなファッションに対する価値観はあまり変化しません。
図2:ファッション価値観
3. 価値観によってみえてくること
このような価値観は、実際の購買行動と深くつながっています。「高価格・高品質」の価値観を持つ人は、ショッピングモールではあまり服を買わない人と考えることができると思いますし、「定番・トレンド」の価値観を持たない人には、「今、これが売れています」「今年、流行りの〇〇」「人気商品の△△」というのは、響かないでしょう。
また、他のどのような価値観と関連深いかを分析することも非常に重要です。たとえば、「おしゃれ好き」に関しては、「自己愛」が強く「恋愛」に積極的であることとのつながりが強い、というようなことがわかっています。
このように価値観に着目すると、トレンドによって変化していく「好み・嗜好」では捉えきれない顧客理解が可能になるのです。
4. キーとなる価値観は三“社”三様
この価値観マーケティングを進めるためには、ターゲット顧客の購買決定要因に直結する価値観は何かを明らかにするところからはじめます。
上記はファッション全般を例にしましたが、当然ながら、業種ごと、ブランドごとに、何が重要な価値観なのかは異なります。まず、それを知ることが重要になります。
トレンドを追うだけではなく、大きな流れとして、自社の強みが、どのような価値観と結びついているかを理解し、それを元にマーケティング戦略・戦術を構築していくことは、非常に効果的なアプローチになります。
<参考>
※記載されている内容は掲載当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。ご了承ください。