DX時代のイノベーションプロジェクト成功の鍵:座談会で見えた7つの要素
私は、マーケティングプロデューサーとして数多くのクライアントのプロジェクトに関わりながら、大学などでマーケティング関連の講師もしています。
今回はそのご縁で登壇した「DX時代のものづくりに求められるマーケティング力」がテーマの基調講演・有識者座談会から見いだされた【イノベーションプロジェクトを成功に導く共通要素】についてご紹介します。
(1)【部会】DX時代のものづくりに求められるマーケティング力
この部会は、広島工業大学地域連携技術研究協力会で開催されました。
広島工業大学では、研究成果を社会に還元するとともに、産学官の共同研究や人的交流など有機的な連携を深め、地域の活性化や産業振興、人材育成といったさまざまな課題解決に貢献することを目的とされています。
その産学共同の仕組みとして、この広島工業大学地域連携技術研究協力会があり、その中の情報システム研究部で開催されたのがこの部会です。
今回のテーマは、「DX時代のマーケティング力について話し合いたい」という会員企業からのご要望に応える形で決定され、中四国地方の企業を中心にさまざまな規模・業種の企業が参加しました。
プログラムは大きく分けて「基調講演」と「有識者座談会」の2つ。
前半に、ベンダーとしてマーケティングプロジェクトや商品開発に携わってきた経験のある私と、事業会社で大きな方針決定に携わり多数のプロジェクトを推進するリーダーによる基調講演。
後半は、「DX時代のものづくりに求められるマーケティング力」をテーマにした座談会です。
企業の存続には、企業と顧客をつなぐイノベーションが必要不可欠
座談会では、広島工業大学 IoT技術研究センター長の濱﨑 利彦教授(ファシリテーター)と、前半で基調講演を行った3人による意見交換がありました。そこで、
- 消費者が求める価値が変化し、それに伴い行動モデルも変化していること
- 顧客の実態を深く掘り下げると企業側の市場に対する思い込みと現実のギャップがあること
が、浮き彫りになりました。この事実から、私は「企業と顧客のWin-Win関係の再構築」が急務であると再確認しました。
変化の多い現代で企業が存続するためには、企業自体も変化し、バリューチェーンの変革や顧客の創造を加速させなければなりません。
そのためには、自社の商品やサービスの価値だけではなく、異なる思考や情報を結びつけることが必要です。
ここからは具体的にそのようなイノベーションを目的としたプロジェクトにありがちな問題点を探っていきましょう。
(2)イノベーションプロジェクトによくある5つの問題
企業にとってのイノベーションとは、これまでにない新しいサービスや製品などを生み出すことを指し、それを実現するための業務がイノベーションプロジェクトです。
このプロジェクトでは、モノ、サービス、ビジネスモデルなどに新しい考え方や技術をとり入れ、新しい価値を生み出し、社会に「変革」を起こすことを目指します。
イノベーションプロジェクトには、市場や環境の変化を観察し、社会や企業に変革を実現するための計画と実行が求められます。
そこには、変化の渦中にいながら、実現可能性とアイデアのバランスを図り、着地点を探索していく難しさがあります。
問題①:メンバー間の意思疎通がうまくいかない
イノベーションプロジェクトは招集されたプロジェクトメンバーを中心に推進していくため、各メンバーの「主体性」と「モチベーション」にプロジェクトの成功がかかっていると言っても過言ではありません。
とはいえ、メンバーは経験、得意分野、事象の受けとり方も千差万別。メンバー同士がうまく意思疎通できないままにしてしまうと、彼らの主体性を維持できずプロジェクトは失敗しかねません。
問題②:方向性がよくわからなくなる
イノベーションプロジェクトでは、常に流動的な事象に対応し続けるため、当初の企画から方向転換せざるを得ないケースも。そのため、プロジェクトの方向性を見失いがちになります。
進むべき方向がわからなくなると、プロジェクトの成功はおろか、メンバーのモチベーションにも影響しかねません。
問題③:議論やアイデアが深まらない
プロジェクトを推進するには、それぞれのメンバーから意見や洞察を引き出し、アイデアを昇華することが重要です。しかし、意見を出しにくい環境にあると、それもなかなか難しい状況に。
問題④:局所最適になりがち
プロジェクトの着地点が「局所最適の施策」になるケースも、問題③と同じ理由です。
異なるバックグラウンドを持つ参加メンバー同士が、同一の事象を観察し、一堂に会して実施する共創型のワークショップは、アイデアを磨き具体的なアクションプランを立てる上で非常に有用です。メンバーの多様な視点や経験から導かれた事象に対する洞察を融合でき、より革新的なアイデアや解決策が生まれやすくなります。
問題⑤:一過性で終わってしまう
イノベーション気質の企業に変化させるためには、イノベーションプロジェクトでの取り組み姿勢や考え方を企業文化として定着させたいが、イノベーションプロジェクトがひとつ成功しても「あとに同様のプロジェクトが自然発生しない」といった問題点もあります。
(3)イノベーションプロジェクトを成功に導く7つの要素
ここからは、(2)で挙げた5つの問題を解決する要素を7つご紹介します。
この7つの要素を同時に進行させ、それらが複雑に絡み合うことで5つの問題解決が可能になります。
成功要素①:「手段と目的」の構造を理解する
手段と目的は、密接に関連しています。
「目的」を達成するためには適切な「手段」を選択する必要がある一方、実務に没頭してしまいついつい「手段」が「目的」になってしまい、本来の「目的」から外れた行動をしてしまうことがあります。問題②(方向性がよくわからなくなる)は、このことによって生じがちです。
一般の業務と比べると、イノベーションプロジェクトでは複数の「手段」のかけ合わせが必要になるケースが多いため、いつも以上に因果関係を見失わないよう心がける必要があります。
そのために、「手段と目的」の“構造”を理解することが重要です。
プロジェクトを進める上で、「この手段に至った背景と根幹の目的は何か?」という部分を常に念頭におきながら、短期的な利益や効率改善に偏りすぎたり、中長期的な視点でプロジェクトの目的を失念したりしないよう、全体最適の視点を保ちましょう。
成功要素②:「クロスファンクショナルチーム」を形成する
「クロスファンクショナルチーム」でプロジェクトに取り組めば、特に問題①(メンバー間の意思疎通がうまくいかない)や問題④(局所最適になりがち)を解決しやすくなります。
最近まで、縦割りの組織は、各部署に明確な責任やミッションを持ち、会社が与えた役割を達成しやすく単一の機能としての成果を出しやすいとされていました。
しかし、現代社会の急激な変化に伴い、縦割り組織では迅速な意思決定が難しく、顧客のニーズに適切に応えることが困難になりつつあります。
さらに、縦割り組織による単一の部門や機能だけでは、企業や組織全体にとって大きな変革をもたらすイノベーションプロジェクトを進めることは難しく、判断もあやまりがちになります。
そのため、価値観が多様で変化の多い時代にイノベーションプロジェクトを成功させるためには、これまでのような縦割り型の組織ではなく、異なる専門分野や知識・経験やアイデアを持つ人を幅広く集める必要があります。これが「クロスファンクショナルチーム」です。
さまざまな部門から多種多様な経験を持つメンバーを集め、クロスファンクショナルチームを編成すれば、異なる部署や専門分野のメンバーが協力し、部門やグループの壁をこえた情報共有や意見交換がしやすくなります。
そうして、それぞれのメンバーがホリスティックな視点を持つことで、局所的な行動に陥りにくくなり、プロジェクトとしてより迅速かつ適切な意思決定が可能になり、市場環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できるようになるのです。
成功要素③:立ち上げ時から「自社以外の第三者」もメンバーに入れる
プロジェクトの立ち上げ時から「自社以外の第三者」もメンバーに入れれば、問題③(議論やアイデアが深まらない)を解決しやすくなります。
社内で組織やルールに縛られすぎると、新しいアイデアやアプローチを受け入れることが難しくなる可能性があります。また、社内の関係性を考慮しすぎて気軽に発言できなくなりがちです。
そんなとき、社外の第三者が参加することで、プロジェクトの透明性が確保され、異なる視点から問題点が見やすくなり、新しいアイデアが生まれる可能性が高まります。
成功要素④:「言葉」の定義を明らかにする
プロジェクトで使われる「言葉」の定義を明らかにすると、特に問題①(メンバー間の意思疎通がうまくいかない)、問題②(方向性がよくわからなくなる)を回避しやすくなります。
言葉の定義は、プロジェクトにおいて非常に重要です。
クロスファンクショナルチームのメンバーは、それぞれ異なる背景や知識・経験を持っているため、同じ単語でも人によってその解釈が異なることがよくあります。
だからこそ、言葉の定義を明確にすればメンバー間で共通の理解を得やすくなり、コミュニケーションの効率化や問題解決のスピードアップにつなげられます。
プロジェクトが進行する中で新たな言葉や概念が出てくる場合も、都度適切な定義を共有すれば、メンバー間の認識のズレを修正できます。
言葉の定義は、プロジェクトの計画から実行までの各フェーズを通して、その成功に影響を及ぼします。目的や目標、スコープ、納期、品質基準など、プロジェクト進行において重要な「言葉」は、常に明確に定義し確認し合いましょう。
成功要素⑤:「発散と収束」を繰り返す
あまり意見が出てこない、議論にもならずアイデアも深まらない(問題③)。
それを解決する方法のひとつが、この「発散」と「収束」を意識して繰り返すことです。
「発散」では、まず、さまざまな立場からそれぞれのメンバーがアイデアを出し合うことを重視します。そのことが、新たなアイデアを生み出すことにつながり、問題解決に必要な手がかりを見つけやすくなるためです。
また、メンバー同士がこの「発散」のプロセスを経験することで、プロジェクト内のコミュニケーションの促進や、信頼関係の構築にもつながります。
「収束」では、「発散」で出てきた多様なアイデアを整理し、問題解決に向けた具体的なアクションプランを立てます。「収束」のプロセスは、意見の一致や方向性の明確化にもつながります。
「発散」と「収束」は、相反する要素のようにも感じられますが、発散だけでは具体的なアクションプランを立てられず、収束だけでは新たなアイデアが得られません。議論を生み出し、それをアイデアという形にして実現するための自転車の両輪のような存在なのです。
成功要素⑥:「主観」と「客観」の目線を持つ
常に主観と客観の目線を持てば、問題③(議論やアイデアが深まらない)を解決できるでしょう。
株式会社ノサックスの野口氏の基調講演では、「鳥の目、虫の目、魚の目」という印象的なお話がありました。
鳥の目は、俯瞰の視点、つまり世界、日本、世の中など。
魚の目は、流れを読み解く視点、つまり時勢や社会、地域など。
虫の目は、複眼、つまり近づいて目の前のことや、自社、自業界のことをさまざまな角度からじっくり見る視点です。
国の統計データなどのさまざまなオープンデータをうまく活用し、市場変化を予測しながら戦略を企画・実行しておられる自社の取り組み事例も紹介されました。この「オープンデータ」は、「鳥の目」の一種とも言えるでしょう。
プロジェクトを成功させるには、創造性と現実性のバランスを考慮した偏りのない意思決定が必要です。そこで、主観と客観の洞察が重要な役割を果たします。
主観的な洞察とは、個人の経験や信念に基づく見解や意見を指し、新しいアイデアを生み出す原動力となります。
客観的な洞察とは、データや統計など、事実に基づいた見解や意見を指し、アイデアやコンセプトが現実的で実現可能であるかどうかを判断するために役立ちます。
データがなく主観的な判断のみで意思決定をしてしまうと、認知バイアスが影響し正確性が損なわれます。
そのような場合は、先ほどの事例のようにオープンデータ活用したり、マーケティングリサーチを利用したり、専門家に意見を求め取り入れることで、洞察の客観性を高められます。
成功要素⑦:「イノベーションを起こすためのスタンス」を根付かせる
「イノベーションを起こすスタンス」とは、これまで挙げてきた成功要素①~⑥のスタンスを徹底すること。
イノベーション気質の企業へと変化するためには、この「イノベーションを起こすためのスタンス」を社員、会社のDNAとして根付きやすい企業文化や環境を作る努力が必要です。
イノベーションプロジェクトが成功しても、その大半が一過性で終わってしまうことが多い(問題⑤)と言われます。
座談会でも、オタフクホールディングス株式会社の岡本氏が、この課題と企業文化の醸成について「お好み焼館」の実例を紹介されました。
オタフクホールディングスの新入社員は、お多福グループのうち主たる事業会社である“オタフクソース”へ入社されます。そして、そこで始めに「お好み焼館」という設備がそろった場所で、お好み焼きを作る研修を行うとのこと。ここでソースを使うユーザー目線を意識しながら、社員同士共同作業をすれば、入社と同時に、同期とのチームビルディングを体験させることができ、社員同士のコミュニケーションの活性化にもつながります。
また、新入社員にかぎらず、オンラインではコミュニケーションツールなどを導入したり、オフラインでも意識的にクロスファンクショナルなチームでスクラムを組む機会をもうけて定期的なミーティングやチームビルディングイベントを実施したりすることで、社員同士が気軽に相談や意見交換のできる環境作りを心がけているとのことでした。
このような取り組みを中長期的に行うことで企業文化に変化を促し、より能動的に働ける環境作りを目指しておられます。
これまで繰り返しお話した通り、新しいアイデアや視点を生み出す種である社員たちそれぞれの個性をいかせない環境、つまり個々人が気軽に意見を発信できない環境では、イノベーションプロジェクトは実現しません。
翻ると、イノベーション気質の組織になるには、気軽に自由に意見や感想などを発信でき、受けとる側もそれを頭ごなしに否定することなく肯定できる環境と雰囲気が必要だと言えます。
そうして、意見を発信する側も受けとる側も多くの社員がイノベーションを起こすためのスタンスで仕事をすることで、意見を出した社員も自分がプロジェクトや会社に貢献していることを実感でき自信につながります。
「プロジェクトの原動力は、メンバーの主体性とモチベーションである」と先にも述べましたが、この好循環を生む透明性の高い環境をいかに作れるかが、イノベーションを生み出し続ける企業になれるかどうかの分岐点とも言えるでしょう。
業界・分野の異なるプロジェクトリーダー3名による基調講演と座談会からわかった「イノベーションプロジェクトの成功に欠かせない共通項」を、ノウハウ形式でご紹介しました。
DXやテクノロジーの進化も重要ですが、最も重要なことは、変化を恐れず中長期的な目標に向かってチャレンジと改善を繰り返す姿勢だと、今回の体験を通じて改めて認識できました。
次回は、当部会でファシリテーターをつとめられた濱﨑教授と和田で「地域創生」について議論した模様をお届けします。(次回へ続く)
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