「継承と革新」が同居するベイスターズの志し【後編】
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球団創設から5年。右肩上がりでファンクラブの会員数、観客動員数を伸ばし続けてきた横浜DeNAベイスターズ。なぜ数年前まで最下位争いをしていたチームが生まれ変われたのか?それは、球団史上初クライマックスシリーズへの進出を果たすなど、「もしかしたら優勝するかもしれない?」と期待感を醸成してきたことが挙げられるが、何よりも大きいのが球団努力だ。
「ファンがチームを強くする」と考え、話題性を考えた施策を展開したほか、オリジナル醸造ビール、ドキュメンタリーDVDなど野球以外の部分で新規ファンと接点を創出することで、ライトなファン層を獲得してきた。それにより、この5年で観客動員数は175.9%成長、座席稼働率は93%という脅威の数字を叩き出している。
横浜DeNAベイスターズは新たに獲得したファンをどのようにアクティベートさせていったのか?後編では、後発参入の球団だからこそできた、彼らの取り組みに迫る。
※前編はこちら
野球=つまみという、逆転の発想
— オリジナル醸造ビール、ドキュメンタリーDVDなど野球以外の部分で接点を持つことで獲得した新規ファンを定着させていくために、何か意識したことはありますか?
河村 プロ野球というコンテンツを一回観るという体験をしてもらえれば、それ自体に魅力を感じてもらえるはずだと考えていたので、ファンを定着させるために特別何かした、ということはありませんね。
それよりも球場に足を運んでもらうためにトイレを綺麗に改修したり、バイトスタッフのユニフォームをオリジナルのデザインに統一したり、横浜スタジアムのある横浜公園に足を踏み入れた瞬間からエンターテイメント空間に来た、と感じられるような工夫をしました。
— エンターテイメント空間ですか?
河村 はい。横浜DeNAベイスターズが提供するメインコンテンツはもちろん野球ですが、ファンが「横浜スタジアムに行ってみようかな」と思ってもらえる動機は様々あっていい。だからこそ、ずっと“野球はつまみでいい”と言っていて。
野球以外の部分で楽しみを持ってもらえるよう、「エンターテイメント空間にやってきた」という感覚を味わえるようにしたいと思っていましたし、それを楽しみにしてもらえればいい、と思っていました。
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— 横浜スタジアムでの試合は勝敗に関係なく、様々な演出やイベントが行われていますが、これこそまさにエンターテイメントだな、と思いました。
河村 そうですね。野球は他のスポーツと比べて試合数が多いので、どれだけチームが強くても負け試合を観戦することがある。ただ負け試合を見て、観客が減ってしまうという事態は避けたかったので、「負けても楽しかったよね」と感じてもらえるように、花火などエンターテイメントの要素を取り入れていくことは大切だなと思います。
実際、横浜DeNAベイスターズが年に一度、夏に開催するイベント「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」では限定ユニフォームを配布する以外にも、その日だけ見られる特別な映像や、その日だけ体験できる特別な花火のショーを用意しています。
ユニフォームだけでなく、特別な体験を楽しみにして、球場に足を運んでくれる人が意外と多くいるんですよ。
— DeNAが親会社になってから、スポーツ観戦に対する考え方が一気に変わったな、という印象が強くあります。
河村 後発で参入してきた球団だからこそ、伝統や前例にとらわれずに施策を展開できるのは大きいですね。80年以上の歴史がある球団もありますが、私たちはまだ5年。だからこそできることがあると考えています。
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所有するコンテンツ(資産)は解放せよ
— 横浜DeNAベイスターズはネット中継にも力を入れていて、いつでも、どこでも試合が見れるようにしていますよね。
河村 ネット中継は、すごく大切にしています。昨年、座席稼働率を93%にすることができましたが、今後、横浜DeNAベイスターズを若い層に届け、さらに全国的に広げていくことを考えると、ネット中継で試合をいつでも観れるようにすることが大切。
以前の地上波で野球が観戦できた頃からそのモデルは崩れつつあるので、ネット中継を充実させて、全国にファンを増やしていける可能性はある。
ニコニコ生放送、SHOWROOM(ショールーム)、DAZN(ダ・ゾーン)、スポナビライブに加え、2017年シーズンからはAbema TVも加わり、5つのチャネルで横浜DeNAベイスターズの試合を観ることができますが、今後もネット中継のプラットフォームは広げていきたいと思っています。
— 2016年、前述のビールなど、さまざま施策を展開したと思うのですが、今後、何か仕掛けていきたい、と考えていることはありますか?
河村 今後は座席稼働率93%をいかに維持するか、が大切だと思っています。ありがたいことにお客様は増えているのですが、この状況は決して安泰ではないと思っていて。
継続して話題になる取り組みを行ったことで、「横浜スタジアムに足を運んでみようかな」という空気感を醸成しつつありますし、要となるチームも昨年のクライマックスシリーズ進出を果たしたように、期待されています。
座席稼働率93%をきちんと定着させるためにも、サービスのクオリティを向上させるのはもちろんのこと、様々な取り組みに新しい要素を取り入れていきたい、と思っています。
また、2020年東京オリンピック・パラリンピックの野球・ソフトボールの主会場に横浜スタジアムが選ばれているのですが、同じタイミングで横浜スタジアムの隣にある横浜市庁舎が移転し、数千人がこのエリアからいなくなってしまうんです。
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そうすると街の空洞化が起きてしまい、横浜スタジアムがある“関内”というエリアが盛り下がってしまう可能性もある。そうならないために、年間約200万人が集う“横浜DeNAベイスターズ”というコンテンツを活かして、街ににぎわいを創出するため “横浜スポーツタウン構想”を掲げ、新たな施設「THE BAYS」を立ち上げました。
歴史も重んじて、温故知新のボールパークを目指す
— 今までソフト面での工夫をお伺いしてきましたが、最後にTOB(株式公開買い付け)で横浜スタジアムを買収したことで何かハード面の工夫は考えているか、教えてください。
河村 横浜スタジアムを買収したタイミングでメッセージフォトブック「BALLPARK」を発表し、その中で魅力的なボールパークに必要な10個の要素を紹介しています。
① COLOR(色)
② ENTERTAINMENT(イベント・演出)
③ SEAT(シート)
④ HISTORY(歴史)
⑤ BALL“PARK”(野球の公園)
⑥ FOOD(食)
⑦ GREEN(芝)
⑧ BEYOND(超える)
DH. SOUND(音)
⑨ LANDSCAPE(景観)
例えば、①の色に関しては少しずつ青い座席に変えています。これまではオレンジ色の座席だったのですが、オレンジは他球団のチームカラーでしたので(笑)。
カラーコミュニケーションを重視し、横浜スタジアムを横浜DeNAベイスターズのチームカラーである青を貴重にしたスタジアムにしています。
もちろん、すぐに全てを整えることはできないですが、いずれはこれらの要素を満たして、魅力的なボールパークにしていきたいですね。
— カラーコミュニケーション以外に行っていることは?
河村 ④の歴史ですね。横浜スタジアムは日本初のナイター試合をやったり、ベーブ・ルースやルー・ゲーリックがプレーしたこともある、40年の歴史がある球場。新たなものを取り入れていくことも大事ですが、これまで築いてきた歴史も大切だと思っています。そのため、球団のコーポレートアイデンティティは「継承と革新」としています。
先日発表した、「横浜スタジアムの増築・改修計画」においても、既存の施設は活かしつつ、魅力的なボールパークになるよう計画しました。
残すべき部分はきちんと残す。ここだけは忘れることなく、ファンが楽しめる魅力的なボールパークにしていきたいと思います。
— ありがとうございます!今年、横浜DeNAベイスターズの19年ぶりの優勝を期待しています!
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なる場合があります。ご了承ください。