モノからコトへのデザインへ
前回の記事では、経験(Experience)は経済価値が高いのであらゆる分野で注目されていることについて書きましたが、今回はその経験のためのデザインについて考えていきたいと思います。
経験のためのデザイン?
経験のためのデザインで代表的なのが「HCD(Human Centered Design)」です。日本語だと「人間中心設計」と言います。
HCDはコンピューターシステムを作る過程で体系化されていったプロセスですが、最近はプロダクトやサービスだけでなくビジネス設計にも取り入れられています。HCDをベースとして、特にビジネスに視点を置いた「デザイン思考(Design Thinking)」という概念も広まってきました。
このほか、「UCD(User Centered Design/ユーザ中心設計)」という表現もあります。よく似た概念なのに表現が違うのは、それぞれ提唱者や歴史の違いによるものです。その歴史を振り返るのも面白いのですが、長くなりますので、今回は表現を「HCD」に統一して書いていきたいと思います。
まずはHCDを体験しよう
言葉ではなく体験するのが一番理解しやすいので、「まずやってみようぜ!」というのが私のポリシーです。
ということで、突然ですが簡単な課題を出します。
あなたは今からプロダクトデザイナーです。
有名な文具メーカーから、年末のクリスマス時期に新発売するペンのデザインを依頼されました。どんなペンがいいか、頭の中でイメージしてください。
イメージできましたか?イメージしてからスクロールして次の課題に進んでくださいね。
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では、次の課題です。
先ほどの課題にひとつ条件を足します。
どんなペンをイメージしましたか?
ひとつ目のペンとの違いは何ですか?
通常のペンのカタチでは、赤ちゃんは扱いにくいですよね。
また、知育玩具として色遊びをする目的であれば、ペン状ではなく柔らかい粘土状や砂状がいいかもしれません。さらに、部屋の中で使うのか、お風呂場で使うのかでもアイデアは変わってきます。
もうお気づきだと思いますが、これがモノのデザインではなくコトのデザインです。このコトのデザインを体系化したものがHCDです。
HCDの国際基準
HCDは国際基準機構ISO 9241-210(旧ISO 13407)にて規定されており、JISで日本語化もされています。
ISO 9241-210:Ergonomics of human-system interaction
JIS Z 8530:人間工学―インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス(ISO 13407対応)
HCDの基本となるプロセス図がこちらです。
人との会話のなかで、いちいち「利用状況の把握と明示」とか「ユーザの要求事項の明示」とは言いにくいので、私はだいたい黄色文字の「調査」「分析」「作成(プロトタイプとか企画、など状態よって言い方は変えます)」「評価」という表現を使っています。
まず、スタートとなっているのが「人間中心設計の計画」です。意味は、書いているままですが、結構重要です。
全てのプロジェクトにHCDが当てはまるわけではなく、また暗黙の中でプロジェクトが進むとメンバー内に混乱を生みます。プロジェクトをスタートする際にプロジェクトオーナーが「人間中心設計を取り入れましょう」と宣言し計画することで、 参加者がその意識を持つことができます。
いざHCDによるプロジェクトがスタートすると、まず実施するのが調査です。調査したデータを分析して要求開発し、ユーザの課題を解決するために設計し、ただちに評価します。評価がユーザの要求を満たせばゴールですし、満たさない場合は必要なフェーズに戻る、というのが基本的なプロセスです。
なお、ISOのこのプロセスでは必ず「ユーザ調査」からスタートしていますが、プロジェクトの規模や状態によっては、評価から入る事も良しとされています。
次回は、各フェーズのHCDの手法について、簡単に紹介していきたいと思います。
※記載されている内容は掲載当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。ご了承ください。