【開封率70%超】志賀高原が『CLUB SHIGA KOGEN』で歩みだす観光DX・観光CRMの第1歩(事例インタビュー)
後列左:長野経済研究所 大沼田氏 後列中央:志賀高原観光協会 野口氏 後列右:シナジーマーケティング 篠原 前列左:志賀高原観光協会 大島氏 前列右:長野経済研究所 玉木氏(取材は2023/02/07に実施)
日本有数の観光地として知られる志賀高原(長野県)。しかし、観光集客は過去20年で4割減、観光収入も4割減に。集客を旅行代理店やオンラインの旅行予約サイト(OTA)に依存することで減った客単価や収益率の改善が長年の課題でした。
これを解決すべく、2022年に志賀高原観光協会が中心となり「志賀高原観光DX推進コンソーシアム」を結成。現在進行形で、志賀高原公式サイトを中心としたDX化による実証事業に取り組んでいます。
集客面では、Web集客から宿泊予約とアクティビティ予約ができ、CRMに繋がるデジタルでのワンストップ対応を可能とした観光プラットフォームの構築に着手。今回は、このコンソーシアムで特に観光CRM部分を担う面々の対談インタビューをお送りします。(第2回のインタビューはこちら)
【1】共に地域を活性化!志賀高原観光協会と長野経済研究所
篠原 「観光辞典」によると、観光協会は運営形態や活動地域によりその機能・役割はさまざまとのことですが、志賀高原観光協会では具体的にどんなことをしていらっしゃいますか。
野口氏 町や村の中で言う『区』のような役割を果たす地方組織です。業務は多岐にわたり、例えば、冬の除雪なんかも行政と一緒に行います。この除雪の負担金も観光協会内で公平に均等に負担配分し、徴収し、お支払いしたりもしています。また、観光地ですのでもちろん、志賀高原全体の宣伝・誘客、受け入れなども担当しています。宣伝については、志賀高原内の特定のエリアや特定の事業所の宣伝はしません。いわゆる「志賀高原」の漢字4文字を売るということを主眼に置いて活動しています。
大島氏 最近では特に、志賀高原は国立公園ですので、多くのお客さまに来ていただきながらもその環境を壊さないよう保全や整備にも力を入れています。
篠原 そんな幅広い事業をたった4名で実施されているんですね。
野口氏 年間200万人の規模の観光客に対して4名なので、ほんとに人手不足で…。
篠原 長野経済研究所さまはいかがでしょう。
玉木氏 私たちは八十二銀行の関連会社で、主な役割は「地域の活性化」です。そのために、地域経済の産業動向を調査し情報発信をするミッションがあります。また、長野県のいろんな企業の人材育成や、新入社員などの研修業務を担う部門、企業の人事制度の構築などを行う経営相談部門などがあります。
【2】観光庁の「DXの推進による観光・地域経済活性化実証事業」に採択
玉木氏 今回の実証事業は、2022年6月に観光庁の「DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進による観光・地域経済活性化実証事業」に採択され開始しました。志賀高原観光DX推進コンソーシアムで、志賀高原観光協会さまや当社をはじめ、シナジーマーケティング社など複数社協業して実施しています。
課題は大きくわけて2つあります。
1つめは、「集客の課題」。志賀高原公式サイトの宿泊予約システム(直販ページ)が十分に整備されておらず、旅行代理店やじゃらん・楽天トラベルなどのオンライン旅行予約サイト(OTA)の利用が増え、その手数料が宿泊事業者側にかかり顧客獲得コストが増加してしまうこと、また公式サイトのコンテンツやWeb広告の最適化できていないことなどがありました。
2つめは、「リピートの課題」です。日本有数のスノーリゾートとしての地位を確立する一方、顧客情報を収集・利活用するための基盤がなく効果的なCRM施策を打てていませんでした。
この2つの課題はつながっていて、どちらも旅行商品の直販(志賀高原公式サイトの宿泊予約システムで宿泊予約を受け付けること)がキーになります。そうすれば、OTA利用コストの削減ができ、利用者の宿泊予約のデータ収集・分析も可能になり、それをCRM施策へ活用することもできるようになる。というのが、実証事業全体での仮説でした。
それをもとに、志賀高原公式サイトを主軸とした取り組みが始まりました。具体的には、公式サイト内にある直販ページ(宿泊予約システム)の改善と、観光情報コンテンツの改善、それで得た顧客データの分析やCRMへの活用実験などがそれに当たります。
OTA以前からあった宿泊予約システムが使われなくなった理由
大島氏 実は、OTAが出てくるよりも前に、志賀高原公式サイトでは宿泊予約システムを提供していたんです。当時は画期的なシステムで、必ずネット予約は志賀高原公式サイトからでないと取れないぐらい唯一無二のシステムだった。
だけど時代が流れて、じゃらんや楽天トラベルのようなOTAが普及し始め、各宿泊事業所さんにはOTAから入ってくるお客さまが増える。OTA経由だと手数料が取られてしまう。そのことで利益率がどんどん減っていく。
一方で、志賀高原公式サイトの宿泊予約システムを活用していただければ、各宿泊事業者さんはもうその手数料は取られずに済むんです。志賀高原公式サイトの宿泊予約システムは、観光協会費を頂戴して運用しているので、各宿泊事業所さんには無料で使っていただけるような基盤整備をしていました。でも、大手には機能やサービス的に太刀打ちできず、宿泊事業者さんにもお客さまにも活用いただきづらい状況になっていた。このジレンマはずっとありました。
だから、なんとか観光協会のシステムをより良いものにして、OTAに頼りになってしまっている各宿泊事業所さんのお客さまを、志賀高原公式サイトの宿泊予約システムから誘引していただくような流れ(=直販)をつくりたかった。以前からそういったことを計画してはいたんですが、今回いいきっかけをいただいたので、もう少し踏み込んだ形でシステムを構築しています。
篠原 宿泊予約システムの改善という意味では、ずっともやもやしたものがあったんですね。
大島氏 そうですね。宿泊事業者さま側からもそういうリクエストをいただいていたので、かなえてあげたかったというのもあります。
篠原 なるほど。今回の実証事業での集客部分の仕上がりはいかがですか。
大島氏 結構いいものができた、求める以上のものはできていると思います。
【3】タビナカ・タビアトのCRM、具体的な実施内容
篠原 私たちシナジーマーケティングは、集客の段階を「タビマエ」、顧客の宿泊予約後から実際の滞在中の段階を「タビナカ」、滞在終了後を「タビアト」と呼び、それぞれに実施すべき活動に応じたシステムをご提供しています。今回の実証事業の中で私たちがお手伝いさせていただいたのは、「タビナカ」「タビアト」の部分ですよね。
大沼田氏 はい。宿泊予約後のお客さまに対するCRM活動ですね。具体的には、会員組織の立ち上げ(CLUB SHIGA KOGEN)や会員向けマイページの提供、そこでのバッジ・クーポン機能や、リピーター向けのアンケートの実施やメール施策などをお手伝いいただいています。
大島氏 会員以外の人に向けてのメール配信など、タビマエ(集客)の部分ではまだシステムを活用しきれていないので、今後はそれも見据えてシナジーさんと一緒に会員組織の定義や運営方法を広げていく予定です。
篠原 これまで実施した中では、やはりこないだのアンケートとメールの反応が私はすごく印象的でした。
【4】NPSスコア31!年6回以上来る人が50%越え!のアンケート
篠原 野口さんから、『アンケート(回答数は1400程度)の結果、年間6回以上来る人が全体の50%超えている』と伺ったのが1番の驚きで。数字で見えているだけで、年間6回以上来る人が700人以上いるわけですよね。回答いただいたのは年間来場者数約200万人の中のお客さまのほんの一部なのに、それでも700人以上も。すごいインパクトでした。
野口氏 強烈ですよね、1シーズン6回って。ちなみに、今日の午前中に、このアンケート回答者の中からリフト券プレゼントを20名抽選して、当選者へ抽選結果をメールしたんです。
大島氏 予想通り、メールを送ってから1時間以内に全員から返信が来ました(笑)。今回のアンケートでお客さまからいただいた情報はメールアドレスしかないので、リフト券を送付するために追加の個人情報をご返信くださいと投げかけをしたんですが、もう即時です。その反応の早さにびっくり。あとは、私はそもそも回答数の多さにも驚きました。
篠原 そうですよね。
大島氏 「300いけばいいかな」と思っていたのに1000超えましたからね。フリー回答の内容については、ある程度想定できた範囲でした。ただ、その回答数と、来訪回数にびっくりでしたね。
篠原 なるほど。私たちが1番驚いたのは、NPS(ネット・プロモーター・スコア)の数値が31という点でした。プラスに転じている時点ですごいのに、31は見たことないレベル。これまで多くのアンケートに関わらせていただきましたが、多くの社員が初めてみた数字でした。
野口氏 それってどういう意味なんですか。
篠原 今回、10段階で志賀高原の満足度と推奨度(おすすめしたいか否か)を調査しましたよね。NPSの計算式自体は9と10の人からそれ以外の数を引いて出すので、大体マイナスになるのが普通なんですが、志賀高原さんの場合、満足度や推奨度が9と10が多過ぎたのでマイナスにならなかった。しかもその結果が「31」というのは、社内がざわつきましたよ。もちろん顧客満足の指標はそれだけじゃないですけど、やはり、あのメールの開封率からのアンケートURLのクリック率、そしてこの回答数の上にこのNPSというのは、総合的にすさまじい数字です。
【5】開封率70%超え!クリック率60%超え!のメール
篠原 今回このアンケートを、「公式サイトでのバナー掲載」と「CLUB SHIGA KOGENの会員さま向けメール」という2つの経路から告知を行いました。メールの配信先は600程度でしたよね。
大島氏 そうですね。そのメールが、開封率70%ちょい、クリック率が60%ちょいでした。
大沼田氏 驚異的ですね。
篠原 そんな数字、めったに見られませんよ。
野口氏 これってすごいの?
篠原 メールマーケティングに15年以上携わってきましたが、こんな高いのみたことありません(笑)。
大島氏 そんなに?やっぱりうちの会員さんの熱量すごいね。
篠原 ぜひファンミーティングとかやってみたいですね。
【6】紆余曲折した「会員化」、その意味と結果
篠原 アンケートやメールの反応をご覧になって、会員化、特にそれをデジタルで行うことの意味を実感されたのでは?
野口氏 そうですね。データで反応を得られることで、分析がやりやすくなりました。
大沼田氏 アンケートではテキストマイニングで「コア層はシーズン中何度も訪れているのでは」という現場の暗黙知の確認もできました。
大島氏 アンケート以外でも、CRM施策の反応が数値化されると、それを残しておくのも簡単なので良いです。手紙を出すような感覚で簡単に会員向けにメールでPRできるのも便利だと感じます。
篠原 ありがとうございます。実証事業を開始して3か月ほど経ったころに「会員組織の立ち上げは一時見送ろうか」というお話が出たりして、紆余曲折がありました。そして、最終的にはCLUB SHIGA KOGENを立ち上げ、さまざまなCRM施策を実験中の今、振り返ってみていかがですか?
野口氏 実は、今回のようなネット会員ではないのですが、会員制度の構想は15、16年前にはあったんです。が、諸事情で中止になりました。ですから今回、あらためてこの会員制度・CRMという話が出てきたのはいいきっかけでした。会員制度の構築はこれからですが、幸先は良いんじゃないかな。実際、会員組織の運用をしている大島はどう?
大島氏 会員組織は自分もやりたいとは思ってはいたんですが、立ち上げた限りは運用していかなければならない。その先を考えてしまうとどうしても自分の中でまだどうやって運用していけばいいか整理ができていなかったので、もう少し時間をかけて立ち上げたかったというのが本音です。ただ、これを機に立ち上げてみて、初年度はうまくいかなくても回して、その反省を生かして次年度に生かしていけばいいのかなと、気持ちを切り替えました。すると、意外にお客さまの反応も良かった。結果的には、これで良かったなと感じています。
【7】現代版の伝道師が活躍できる会員組織に
篠原 今後の展望は?
野口氏 昔の志賀高原には『伝道師』がいたんです。会社の先輩や大学の先輩なんかが、こう滑るんだ、ここで食べるんだって教えてくれた。でも、時代とともにそういう人たちが少なくなり、そういう付き合いも減って個になっていった。私は、もう1回このCLUB SHIGA KOGENの会員さんたちがその伝道師になって、志賀高原を知らない人たちを連れてきて、志賀高原ファンにできるような仕組みをつくれたらいいなと考えています。
大島氏 今回、シナジーさんのシステムを使ってCLUB SHIGA KOGENをつくったんですが、その会員向けサービスの1つにクーポンもあります。これはすごくお客さまの誘引に効果的な事業だと思います。今後はCLUB SHIGA KOGENの会員さん同士が、そういう何かしらの事業で交流できる場をつくりたいと考えています。
篠原 なるほど。うちからご提供しているシステムにも「コミュニティー機能」みたいなものがあるとさらに良さそうですね。
野口氏 そうですね。まあ、ネットではなくリアルの場でのイベントでもいいですし、とにかく何かしたい。
大島氏 そうそう。きっかけはデジタルでもコミュニケーションはアナログで。それがさっきの野口さんの話につながっていくんじゃないかな。また、お友達を連れて志賀高原にお越しいただくきっかけを私たちで演出したいです。
野口氏 これ、スキーメーカーやウエアメーカーから見たら喉から手が出るほど欲しい組織でしょうね。
篠原 そうですね。先ほど大島さんもおっしゃった「会員“以外”の人向けのメール配信」など、タビマエ(集客)の部分でも活用できれば、さらに数も増え、すごいデータベースになると思っています。グリーンシーズン(冬のスキー・スノーボード以外の時期)の集客もこれから始まりますし、今後はそれを見据えて会員組織の定義や運営方法を広げていくお手伝いができるとうれしいです。(第2回へ続く)
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